ゼミ生3年のYとNが先生の部屋をノックすると、先生は快く迎えてくれた。
お菓子と紅茶をいただきながらインタビューは始まった。
まず、松本先生のプロフィールを紹介しよう。
本名松本貴典。11月19日生まれ。年齢不祥。さそり座の右利き、AB型。
同志社大学卒業後、大阪大学の大学院に進む(コテコテの関西人)。
専攻は日本経済史。特に、戦前・戦後の数量経済史のエキスパートである。
現在は成蹊大学経済学部助教授。
実は、今回のインタビューにあたって、私達は事前に質問を用意して行なかった。
松本先生とのつきあいは今年で2年になる。
もう、お互いの酒癖の悪さまで知り尽くしている間柄なのに、
今更何を聞けばいいのだろう?と、思っていたからだ。
まずは、当たり障りのない質問からぶつけてみることにした。
「先生が経済学を専攻した理由は何ですか?」
すると、意外な答えが返ってきた。
「19才のとき、“なぜ人間は都市で生きていけるか?”という感銘深い話を聞
いて、感動したからだ。」
とのこと。
これは初耳であった。
「以前、ゼミのあいさつの時、話したと思うけどな・・・。」
ウソである。
最初のゼミの時、先生がゼミ生にくばった自己紹介レジュメには、
そんなことは一言も書いてなかったと思うのだが・・・、
私たちの思い違いだろうか。
軽いショックをおぼえながらも、次の質問に移る。
やはり、経済学部助教授というからには、“今後の日本経済の行方”について
の質問は絶対にはずせない。
しかし、この質問について先生は、一言こういった。
「まだしばらくは下降をたどるでしょうね。」
そんなことは分かっている。
この不況時代の中、日本経済が下降をたどっているのは、火を見るより明らか
である。 しかし、そこは経済学部助教授。
その発言の裏には、鋭くdeepな理論が存在するのではないだろうか。
私たちは次の言葉を待った。
すると先生は、現在の政府の経済政策について、大いに語ってくれた。
先生がおっしゃるには、
「一部で検討されている“調整インフレ論”は論外です。
“調整インフレ論”は、マネーサプライを政策的に増加させて、 経済をイン
フレに導こうとする政策です。 インフレになれば、地価が大きくはない上昇して
不良債権問題が解決する というのが、この政策の眼目なのだけれど、上手くいく
はずがない。 だいたい、この超低金利時代にインフレ誘導などすれば、実質金利
はマイナスになって、 銀行に長く預金すればするほどお金の価値が減っていくことになります。 こん
な経済運営が国民が支持されるはずがない。 経済に大きく政府がコミットしすぎ
ると、ろくなことがないんだから。」
ということらしい。
先生、やっぱり新古典派経済学者らしい。
裁量的な金融政策の効果には懐疑的なのだ。
しかし、私の頭ではいまいち理解できなかった。
う〜ん。
もしかすると、先生はこんなくだらない質問をしたことに
腹を立ててしまったのかもしれない。
余計なことをいって「こんな事も理解できないなんて、おまえ
達にゼミの単位はやらん!」 と怒っちゃったら困るので、私たちは黙っているこ
とにした。
気を取りなおして、この不況時代の中で、今後伸びていくと思われる産業は何
か聞いてみた。
「それは、もちろん情報系産業でしょう。」
いや、だからそれはわかってるって。
つっこみたいのを抑えながら、私はこのインタビューにただならぬ不安を感じ
ていた。
もしかすると、松本先生は私たちに本気で応じてくれていないのではないだろうか。
わき出す不安をかき消して、私は思いきって聞いてみた。
「では、今後の日本経済はどうあるべきか、先生独自の理論を聞かせて下さい。」
すると先生は、ステキな微笑を浮かべてこういった。
「経済のルールを明確化すること。
国民に長期的な経済ビジョンを提供して、
国民に自信と本来力のある日本経済に対する信頼を取り戻させること。
これが確立されないと、どんな経済政策も小手先にすぎず、効果は小さいでしょう。」
さすが先生。やっぱり経済学者ともなると言うことが違うねっ、
とおもわず感心してしまった。
が、よく考えてみると、そんなに簡単にいくとは考えられない
のである。 いや、うまくいくのだろうか?ん?????
よく分からなくなってきた。
ふと見ると、隣のNも青ざめている。
どうやら私と同じ事を考えているらしい・・・。
二人の知識不足のために何だか盛り下がってきた話を打開するがごとく、
私たちは話題を変えてみた。
「先生が感じている成蹊大生のイメージはどういうものでしょうか?」
いい質問である。
とっさの思いつきとはいえ、私は自分のいったことに感動してしまった。
ここで、先生が成蹊大生のすばらしさをせつせつと語ってくれれば
インタビューは一気に盛り上がるはず。
しかし、その読みは甘かった。
この質問に、先生は表情一つ変えず、一言、
「“おとなしい”と思います。」
とおっしゃった。
確かにそうかもしれない。
成蹊の学生はみな育ちが良いせいか、全体的におとなしい。
それ以上でもそれ以下でもないのが成蹊の学生である。
しかし、はっきりいって先生のこの発言には、成蹊の学生に対する
“愛”が全く感じられない。
先生は成蹊を愛していないのだろうか。
それを確かめるために、非常に個人的な質問ではあったが、
私たちゼミ生の印象についてうかがってみた。
「先生は今の3年ゼミをどう思ってますか?」
一瞬、不安が頭をかすめた。
思い返せば、去年の2年ゼミはほとんど“お葬式”状態だったし、
やたらと休講が多かったし、
昨年のゼミ生が半数以上持ち上がった今の3年ゼミも
スタートは多少、転けた節があったが、
まさか先生、「ゼミは嫌い」とか、言わないだろうね・・。
「(人材的には)おもしろいと思います。
ただ、例年にくらべてゼミが終わるとすぐに教室を出ていってしまいますね。
去年のゼミ生はいつまでも教室に残っていてので、いっしょに話をしたり、
メシに誘ったりしたもんです。
今年のゼミ生にはそういうのはないですね。」
先生は少し寂しそうにそう語った。
先生は、成蹊の学生やゼミ生に愛を感じていないわけではなかったのである。
学生たちとコミュニケーションをとりたくても、
シャイで恥ずかしがりや
(推定)の松本先生は、 うまくそれを表現できなかったのである。
かわいいぞ!!先生。
ちょっと意外な気もするけど。
さて、最後に私たちはどうしても聞いておきたい質問があった。
松本先生は、長身で足も長く、顔も悪くない。
そんな先生が女性にもてないはずはない、と考えた私たちは思い切って聞いてみることにした。
「先生、モテるでしょう?」
この質問に、普段はすぐれない顔色をぽっと赤らめながら、
「そんなこともないですよ。」
とあっさり。
みごとにかわされてしまった。
しかし、この2時間にわたるインタビューでうすうす感じていたのだが、
松本先生は生まれも育ちも関西。いわば根っからの関西人である。
関西人というからには、やはり会話には「つっこみ」がほしいのではないだろうか。
そう考えた私たちは、この質問に関してはしつこいくらい、つっこみ攻撃を繰り返した。
すると先生は、少しうろたえながら、ちょっと自慢げにこう言った。
「人様よりはちょっとは・・・。」
この爆弾発言に室内は異様な盛り上がりを見せた。
その盛り上がりはとどまるところを知らず、
インタビューは私の「先生はモテっぱなし」の一言で無理矢理、
幕を降ろすこととなった。
このインタビューを通して、なによりも強く感じたのは、
私たちが抱いていた先生のイメージと、実際の先生像はかけ離れていたということであった。
真の松本先生は、生徒との交流を避ける厳しい助教授ではなく、
生徒と積極的に触れ合い、
様々なアドバイスをしてくれる頼もしい兄貴のような人物であった。
ゼミ生のみならず、成蹊大学の皆さんはもっと積極的に
松本先生をたずねてみてはいかがだろうか。
きっと先生は、無愛想ながらも私たちを快く受け入れてくれるだろう。
最後に、私たちのいたらない質問にも嫌な顔一つせず答えて下さった先生、
ありがとうございました。
とりあえず、ご飯を食べに連れていってください?
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